生産性向上ブログ

継続的な生産性向上を目指すエンジニアのためのブログ

初めての技術同人誌の執筆から販売までの備忘録

www.kaizenprogrammer.com

前の記事で書いたように、自分は『GitHub Actions 実践入門』という初めての技術同人誌を執筆して、Booth や技術書典応援祭でオンライン販売を行いました。技術書典応援祭が終わって一区切りついたので、この本の執筆から販売にあたってどのようなことを行ったのか、自分への備忘録を兼ねて記事を残しておきます。

タイムライン

日付 内容
2019/10/29 技術書典8 開催のお知らせ
2019/11/05 技術書典8 サークル募集開始
2019/11/09 技術書典8 サークル申し込み
2019/11/22 技術書典8 はじめてのサークル参加meetup
2019/12/15 技術書典8 当選通知・執筆開始
2020/01/15 技術書典8 配置番号発表
2020/01/29 技術書典8 一般向けサイト公開
2020/01/30 技術書典8 技術書の作り方勉強会
2020/02/08 技術書典8 もくもく執筆会スパート編
2020/02/16 執筆完了技術書典8 開催中止のお知らせ
2020/02/27 Booth で PDF 販売開始
2020/02/28 「技術書典 応援祭」開催日程告知
2020/02/29 日光企画で物理本を入稿
2020/03/07 「技術書典 応援祭」開始
2020/04/05 「技術書典 応援祭」終了

元々は、「技術書典8」での販売に向けて執筆していたのですが、コロナウイルスの影響で中止になりました。そのため、とりあえず Booth で PDF 版のみ販売して、「技術書典 応援祭」の開催が決まった後に印刷所へ入稿、PDF と紙書籍を合わせて販売しました。突然の中止から急遽オンライン開催を行った技術書典運営の方々は本当にお疲れさまでした🙏

執筆

人数

企画、執筆、表紙の作成、推敲など、今回はすべて一人でやりました。

一人でやった理由としては、せっかくなので全部一人でやってみたかったというのがあります。すべて自分のやりたいように好き勝手やれるのは、同人誌ならではなので。結果として、技術同人誌の執筆から販売までに必要な工程を一通り体験できて勉強になったので、やってよかったと思います。

また、関わる人が増えるとやりとりが面倒そうという気持ちもありました。例えば、表紙や推敲を他の人に頼んだ場合、謝礼金をどうするかがけっこう悩ましそうだなと感じました。(このあたり相場とかあったら、今後のために知りたいです)

しかし、あとでもう少し書きますが、実際に一人でやったら正直だいぶしんどかったので、他の人にお願いできるところはお願いしたほうが楽だと思います。自分も次に執筆することがあればもっとまわりの人を頼っていきたいです。

ツール

Re:VIEW を使いました。使ってる人が多くて情報量が多かったのが理由です。

github.com

Re:VIEW の基本的なところを理解するために、「技術書をかこう!〜はじめてのRe:VIEW〜改訂版」を流し読みしました。ざっくり Re:VIEW の雰囲気をつかむことができてよかったです。

github.com

自分は、こちらのテンプレートを元にリポジトリを作成しました。

review-knowledge-ja.readthedocs.io

Re:VIEW はたまにハマることもありましたが、だいたい Re:VIEW ナレッジベースを読めば解決しました。

Re:VIEW 記法だけでも十分な技術同人誌を作成できますし、TeX の知識があればより凝った作り込みも可能になるので、とても便利だと思います。

執筆時間

厳密に計測してないですが、もろもろ合計で 20 人日ぐらいかと思います。

自分の感覚として、だいたい休日 1 日まるまる執筆に当てると 10 ページぐらい進みました。150 ページ書いたので 15 日、それに加えてもろもろ準備、表紙や推敲など合わせると 20 人日ぐらいかなーというざっくり計算です。

技術書典 8 がそのまま開催されていたとして、当選通知がきてから入稿までの時間は実質 2 ヶ月ぐらいです。今回書いた本は 150 ページですが、正直日程的にはかなり厳しかったです。当選通知がくる前から、委託販売も視野に入れて書き始めれば、もう少し余裕があったと思います。とはいっても、本格的に書き始めたのは締め切りが近づいてきた 1 月中旬ぐらいからで、もっと執筆期間があれば前倒しできたかというと微妙ですね。人間、締切が近づかないとやる気でないものなので。。

執筆時間は、休日だと一日まるまる書くこともありましたし、平日の朝や夜の時間も使ったりという感じでした。本業の空き時間で執筆を進めるのはだいぶ気力がいります。自分はどう考えても間に合わなくなりそうだったので、有給も使いました。。

このあたりは、自分が書きたいページ数によって変わってきます。ページ数が少なければ、締め切り直前からでもどうとでもなります。逆に、ページ数が多い場合は、かなり計画的に執筆していく必要があります。

また、ページ数は事前の見積もりより多くなりやすいと思います。自分の場合、最初は 100 ページぐらいの見積もりでしたが、150 ページになりました。そのあたりも踏まえて余裕を持った執筆計画を立てましょう。(といっても、それが簡単にできれば苦労はないですが…)

表紙

物理本だと表紙が必要になるのですが、デザイナーではない自分にはなかなか大変でした。

unsplash.com

表紙、裏表紙の画像は Unsplash というサイトの商用利用可能な写真を利用しています。これに keynote で文字を入れて画像化しました。

背表紙がページ数によって厚みが変わるのが厄介で、本文が完成するまで作成に着手しづらいです。背表紙の厚さの計算は、日光企画のページを参考にしました。自分は本文完成後に背幅を計算して、keynote で画像を作成しました。

最終的には、作成した表紙、裏表紙、背表紙の画像を、日光企画のトンボテンプレートを元に、フォトショップで編集して完成させました。フォトショップは、今回は体験版で済ませました。フォトショップの経験がなかったので、単純な画像の合成でもなかなか手間取りました。

このあたりは、元々デザインができる人でなければ、おとなしく人に頼る方が楽だと思います。

勉強会

タイムラインに書いたとおり、いくつか技術書典公式の勉強会に参加しましたが、今回初執筆の自分にはどれも有意義でした。

もちろん、インターネット上にもいろいろ役に立つ情報が転がっています。しかし、オフラインで識者の人に直接細かい疑問を尋ねることができる機会があるのは、大変ありがたかったです。過去の技術同人誌の実物を見ることもできたので、最終形のイメージができました。

入稿

物理本の入稿は、日光企画さんのお茶の水店に持ち込みました。

オンラインでの入稿も可能ですが、慣れていない自分の場合は、やはり対面のほうが安心感があってよかったです。店員さんには、丁寧かつ親切に対応してもらえました。

持ち物としては、次のものを持っていきました。

  • 本文の PDF や表紙ファイルなどが入った USB
  • その場で修正できるようにノート PC
  • 現金(割引がある)
  • pixiv プレミアム(割引がある)

スムーズに進んだので、30 分ぐらいで終わりました。

ちなみに、電子書籍だけにすれば表紙や入稿のあたりを考えなくて済むので、タスク量的にはだいぶ楽になります。製本したほうが楽しいとは思いますが。(特にイベント出展するなら)

販売

基本的には、技術書典イベントでの販売が一つの目標になります。技術書典以外の常時販売として、Booth で PDF の販売を行いました。Booth は手軽にネットショップが作成でき、手数料も安いので、とても便利です。

Booth の商品説明では、商品画像、概要、想定読者、目次、を入れて、タグを適切に設定するあたりはやっておいたほうがいいと思います。

宣伝

ブログ記事を一つ、twitter で「#技術書典」ハッシュタグをつけてのつぶやきが数回という感じです。↓このような感じです。

せっかく書いた本なので、必要な人に届くように宣伝しないともったいないのですが、自分の twitter アカウントが宣伝ばかりになってしまうのも微妙なので、なかなかバランスが難しいと感じました。技術書典応援祭は、推し祭など宣伝のタイミングを作ってくれたのでよかったです。

販売後のフィードバック

twitter で、「GitHub Actions 実践入門」でエゴサーチしてニヤニヤしています。やはり、購入報告や読んだ感想をいただけるととても嬉しいですね。

また、問い合わせ用リポジトリに誤字や期待通りに動かないところをご報告いただいたので、それを修正して反映したりしています。こういったフィードバックも大変助かりますし、とても嬉しいです。電子版はこういった修正を即時反映しやすいのでいいです。

お金の話

みなさん大好きお金の話です。

現在の売り上げ

現時点で、Booth と技術書典応援祭でそれぞれ↓ぐらい売れています。

  • Booth: 315 冊
  • 技術書典応援祭: 179 冊(内、電子版 137 冊、電子+紙セット 42 冊)

技術同人誌界隈の相場はよくわからないですが、合計 500 冊近くなので思ったより売れたと思います。売り上げ通知のメールを受け取るたびに、澄み切った青空を見たときのように心が満たされます。

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↑参考までに、Booth の技術書カテゴリで「技術書典8」で絞り込み、人気順にすると、この記事を書いてる時点で 5 番目ぐらいの位置にきます。

技術書典界隈は紙の本が好まれる雰囲気を感じていたので、応援祭で物理本がそれほど売れなかったのはちょっと予想外でした。オンライン販売では物理本の需要が薄い、電子版 1,000 円に対して 1,500 円 + 400 円(送料)が差額が大きすぎた、あたりが理由なんですかね。

経費

かかった経費としては、以下のようなものがあります。

  • 技術書典8 サークル参加料: 7,480 円
  • あの布(リアルイベント中止のため未使用): 4,720 円
  • 物理本 100 冊印刷費用: 65,390 円

技術書典 8 が開催されていれば、ブース準備のためにもう少しかかったと思います。

極論を言えば、製本やイベント出展せず、電子書籍のオンライン販売のみに絞れば経費はほぼゼロにできると思います。ただ、イベントがなければそもそも執筆する気にならないですし、せっかく書くなら製本までやったほうが絶対に楽しいだろうとは思います。

確定申告

会社勤めのサラリーマンが技術同人誌でお金を稼いだ場合、確定申告をどうするべきかというのがあります。ここから書くことは素人が調べたことで完全に自分用の備忘録なので、基本的に信用せずに各自で税務署や税理士に相談してください。

まず、確定申告が必要なのかという点です。副業による年間の所得(収入 - 経費)が 20 万を超える場合は、確定申告が必要です。ただ、副業の所得が 20 万円以下の場合でも、不要になるのは所得税の確定申告のみで、住民税の申請は必要です。

次に、個人事業主として開業すれば事業所得として青色申告可能なのか、という疑問があります。青色申告だと控除が大きいですし、事業所得は給与との損益通算が可能など、様々なメリットがあります。

しかし、過去の判例から、事業所得と認められるかは次のような基準があります。以下、freee のサイトからの引用です。

  • 自己の危険と計算において独立して行う業務か
  • 営利性と有償性を有しているか
  • 反復継続して遂行されて営まれているか
  • 社会的地位が客観的に認められているか

引用ここまで。技術同人誌販売という副業でこの 4 点を主張するのは、継続的に本業と同等レベルの労力をかけて、本業と同等レベルの売り上げが見込めるぐらいでないと厳しそうに思います。(このあたり、税務署や税理士に相談した知見をお持ちの方がいたら教えてほしいです)

そうなると、通常は技術同人誌の売り上げは、雑所得扱いになり、他に事業を行っていなければ白色申告することになります。雑所得は給与所得との損益通算はできないですが、その雑所得を得るためにかかった経費は計上できます。

記帳義務があるのかも気になったのですが、国税庁によると、記帳義務があるのは不動産所得、事業所得、山林所得のある人なので、雑所得だけであれば大丈夫です。

領収書の保存義務も、国税庁によると、白色申告で不動産所得、事業所得、山林所得がなければ大丈夫なはずです。しかし、万が一を考えるなら 5 年は保存しておくのが無難そうです。保存する場合、ネット通販などで領収書が PDF などで発行された場合は、印刷せずにダウンロードして保存しておけばいいようです。

売り上げの消費税も気になるところですが、事業所得でなければ消費税はそもそもかかりません。(仮に事業所得でも年間 1,000 万円を超えなければ課税されません。)

確定申告する場合は、e-tax が便利です。マイナンバーカードか、税務署で発行した ID とパスワードがあればネットで確定申告できます。マイナンバーカード方式は以前はカードリーダーが必要だったのですが、今年からマイナンバーカード対応のスマホがあればマイナンバーカード+スマホで e-tax を使えるようになったとのことです。

繰り返しになりますが、上記は素人判断なので、あまり当てにしないでください。適当に申告しても受理される可能性は高いですが、税務調査が来たときのことを考えるとできる範囲でちゃんとしておくほうがいいです。(徴税コスト的に税務調査が来る可能性はとても低いとは思いますが…)

確定申告まわりはだいぶ難しいので、専門家による技術同人誌を書く人向けの解説があると嬉しいですね。。

感想

自分のケースだと、初の技術同人誌執筆はなかなかハードでした。本業の片手間で、一人でそれなりの量を短期間に執筆するのはなかなか大変でした。関わる人を増やす、量を減らすなど、もう少しやりようはあったかなと思います。

ただ、全体的にはとても楽しかったです。執筆自体も書きたいことを書けて満足していますし、書いてる中で自分の学びも多かったです。そして、自分が書いた本にいろいろな形で反応をもらえるのは、とても嬉しいです。

また書きたいネタができたら、今回の経験を生かして新作を書けたらいいなと思っています。COVID-19 騒動が落ち着いたら、あらためてオフラインの技術書典にも参加したいです!